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チオの日記

1人で静かに暮らしています。

「豊かな老後」とは何か

人生

今日は、出張で父が東京に来ているということで、父と2人で食事をした。僕の自宅から電車で10分弱の位置にある駅で17:30に待ち合わせることになっていたのだが、僕の父は携帯電話を持っていないため、会えるかどうか少々不安であった。が、それは完全に杞憂で、待ち合わせの駅に到着した僕は父の姿をすぐに発見することができた。僕は駅から程近い焼肉店へ行くことを提案し、父と2人で焼肉を食べに行くことになった。

 

僕は実家に帰っても父とはそんなに喋らない。別に仲が悪いとかそういうわけではないのだけれど、僕は相手が誰であろうが人に話し掛けるのが苦手だし、父もそんなによく喋る性格ではない。そして、今日のように父と2人で食事に行くなんてのも滅多にないことで、僕が大学1年生だった頃以来だ(8年ぶり?)。

 

焼肉店に入ってから最初のうちはあまり会話が弾まなかった。父が今日どういうことをしていたかという話や、店内のテレビでそのとき流れていた御嶽山の噴火についての話をポツポツとしていた感じだ。しかし、しばしの沈黙の後、父は祖母についての話を滔々と語り始めた。

 

僕の祖母(父の母親にあたる)は、今年の4月に亡くなった。昔から調子の良くなかった肺が遂に限界を迎えてしまったのだそうだ。亡くなる直前に祖母が入院したとき、「もういつ息を引き取るかわからない状態だから、意識があるうちに会いに来ないか」と、母が僕に連絡をくれたのだけれど、その数時間後には祖母の意識は戻らなくなり、翌日に祖母は亡くなってしまった。「年度初めで忙しいだろうから葬式のために帰ってこなくていいよ」と母が言ってくれたので、僕は祖母の葬式に参列していない。

 

そんな事情もあって、僕はあまり知らなかったのだが、僕の両親と祖父(父の父親にあたる)は、祖母が亡くなってから非常に険悪な関係になっているらしい。父の話によると、祖父は自分の家と墓について強いこだわりを持っているのだそうだ。まず祖父は自分の家から離れて暮らすなどということを微塵も考えておらず、それどころか子供が帰ってきて自分の世話をしてくれるのが当然と考えているそうだ。父はまだバリバリ仕事をしているのだから、実家(祖父の家)に住むことなんて不可能だ(距離的に)。子供に家を継がせる気満々の祖父は、祖母が亡くなる前に祖母に対し「家のリフォームをする」と言い張り、祖母と揉めていたらしい。祖母があまりにも反対するものだから、祖母の聞こえないところで(家の表の路上で)業者と契約して、リフォームに200万円も突っ込んだそうだ。しかも、本来30万くらいで済むはずのところを、やらなくていい余計な部分まで業者に勧められるがままにリフォームしてしまい総額200万円になったのだとか。実際に施工はされているから完全にリフォーム詐欺とは言い切れないけど、ほぼそれに近いような感じだと父は言った。

 

そんな調子で、同じく約200万円を掛け、(祖母と)自分のための墓を祖父は建てた。自分の墓が完成して、祖父は子供のように喜んでいたらしい。

 

しかし、僕の両親は家や墓なんかには価値を感じていない人間で、子供に家を継がせるとか墓を守らせるとかそんなことは微塵も考えていない。そのため、祖母が亡くなったのをきっかけに、両親と祖父は思いっきり衝突してしまったようだ。父は以前から、もし親のどちらかが亡くなったら、近所にある老人介護サービス付きのマンションに入居させて、時々一緒にご飯を食べたりするような関係を築こうかと考えていたそうだが、前述のような強いこだわりを持つ祖父がそんな提案を飲むはずがないし、家や墓の件で僕の母と祖父が全面衝突し、母が完全に激怒しているらしいのでもうどちらにせよ無理だ。

 

そのような話を父から聞くうちに、僕は改めて祖母の偉大さを知ることとなった。頑固な祖父と僕ら家族の緩衝材となってくれていたのは紛れも無く祖母だったのだ。僕ら家族が遊びに行ったときは手厚くもてなしてくれたし、親戚のところから安く入手したお米や果物や野菜をたくさんくれた。ただ、無条件で甘やかしてくれる人ではなくて厳しい一面もあったので、小さい頃の僕は祖母のことが正直そんなに好きではなかったのだけれど、今になって昔のことを思い出すと、祖母はしっかりした人間だったんだなと感じる。ここ数年は、遊びに行くたびに、「いい学校に入って、いい会社に勤めて立派だね。あとはお嫁さんを見つけるだけだね」と僕に対し言っていた祖母。でも、お嫁さんはたぶん一生見つけられないんだ。本当にすまん。

 

祖母が亡くなってからの一連の出来事をきっかけに、僕の両親は「豊かな老後」とは何なのだろうかと改めて考えさせられたそうだ。自分の墓を建てて子供みたいに喜んでいるのが「豊かな老後」なのだろうか。自分の家や墓にこだわった祖父は、子供たちと衝突し、関係が険悪になってしまった。これでは誰も面倒なんて見てくれないし、孤独な死を迎えることになるだろう。